前回の特別対談から約7年が経過した2025年12月。その間、「コロナ禍」という想像もしなかった出来事が起こり、家具や空間の業界にも大きな変化・進化をもたらしました。


世の中の変化は、二人の思考にどんな影響を与えたのか。それによって導かれたお互いの現在地とは。それぞれの立場から振り返ったこれまでと今について語り合いました。


Section. コロナ禍を経て変化した「価値観」

高須さん

コロナによって、住宅に対する価値観が変わった印象があります。 “家の中でどう過ごすか”に対する考え方がコロナ前後ですごく変わってきたし、それに伴って家具に求める価値観も変わってきているように感じますね。


中村

私たちも大きな影響を受け、売上が半分になった時期もありました。学さんと一緒に進めていたプロジェクトが中止になったり、物件の計画がなくなったりもしましたから。今から何をつくっていけばいいのだろうかと悩みました。


でも、コロナの影響で、観光産業が大きな打撃を受けた日本は、アフターコロナになり、アッパーな旅行客が増えました。高レベルの価値を求める人が増えてきて、旅行に限らずお金の使い方が変化してきたというか。そんな時代だからこそ、より価値の高いものをつくらなければ生き残れないと感じています。


 


高須さん

コントラクトもそうですし、住宅においてもですが、ここ10年で「質」がすごく上がっているような気がします。それと同時に、家具の価値や価格も上がっています。これは、年代を問わず「空間にかける金額」が上がってきているということだと思うので、業界としては喜ばしいことです。


今までは、「衣食住」って、着るもの、食事、住まいという言葉そのままの順番でお金をかける人が多かった気がするんですよ。和室から洋室の文化に変化し、それに伴って洋家具も増えてきてきましたが、それって1950年代くらいからなので、もしその時代から家具を使い続けているとしても50年とか60年程度の歴史。たかが三世代くらいです。海外で言われる家具の価値って100年以上ですから、そう考えると、本当の家具の価値を知ってもらうにはまだ時間がかかるんですよね。高くても長く使い続けられる、世代を超えて受け継いでいけるというような、「良い家具」の価値が定着してくるのはこれからかなとは思いますが、私たちが追求する上位層の家具が、少しずつ市民権を得てきた感覚があります。


Section. 家具の産地・日田市の新たな魅力発信基地『CREATIVE BASE FAB』が完成

中村

売上が半分になった時は、どこよりも早く、安いものづくりをしてとりあえずしのぐという判断も考えました。でも、そもそも営業の為に移動すること自体がNGとされていた時期。


そんな中でひとつ出た結論が、コロナが終わったときの、ベストリビングの工場としての立ち位置がすごく大事だということ。40年かけて良いものがつくれるようになって、お客様にも認めてもらえるようになったのに、コロナが理由で落ちるのはイヤだったんです。コロナが終わったときに、工場としての価値が最低でも横ばい、なんなら上がっていなければならないと。そのためには、この空白の時間を有効に使わなければと思いました。


これまでのことをじっくり振り返ってみると、自分たちの仕事を発信するってことを積極的にやってこなかったなと気づいたんです。やるなら時間がある今しかないと。そこでデザインをお願いするなら学さんにと連絡させてもらったのが、『CREATIVE BASE FAB』(以下、FAB)プロジェクトの始まりです。


高須さん

中村社長は、以前からアンテナが良いところに向かっている人でしたから、お話をいただいて、この苦境も乗り越えるんだろうなと思いました。


私たちの仕事も、コロナによって空気感の変化みたいなものが起こりました。例えば飲食店だとにぎやかで活気があるとか、若い人が集まるとか、そういうイメージを依頼されること多かったんですが、コロナ以降は、広く一般に求められるものというより、せまくてもひとつのジャンルを深く掘り下げたいという考えが散見されるようになりました。


住宅づくりも同じように変化して、ひとつひとつのものに対する解像度がクリアになってきました。ディテールにしっかりこだわりたいというクライアントが増え、どこでつくられているとか、どんなコンセプトなのかとかといった「ストーリー」を気にする人が増えました。つくり手の思いが伝わる社会になってきたんじゃないでしょうか。


中村

この変化した時代に、「デザインの力」はますます重要になってくると思います。以前、学さんに「デザインって何だろう?」って聞いたとき、「問題解決でしょ」ってさらっとおっしゃったんですけど、その言葉がすごく腑に落ちたんです。場所をつくるだけだったら問題解決にはならない。そこにストーリーが入ることで、私のやりたいことに近づくと思いました。そういう意味では、デザイナーとして高須さんに入ってもらったからこそFABは成立しています。さらに、この空間に合うデザインの家具を私たちがつくることによって、ニーズにマッチするお客様が集う場所にできる。中途半端な家具では人は集まってきませんから、やっぱりデザインの力が不可欠ですし、そのデザインを表現する職人の能力が試されているとも思います。


Section. 「職人ってかっこいい」を発信する場所に

中村

日田市はものづくりの町なので職人が多いんですが、自身のブランドとして売っている人は少ないんですね。それもあってか、当社も含めて「伝え下手」なんです。そんな職人のポテンシャルを引き出してくれるのが、デザイナーやクリエイターの方々なのですが、つながらなければ何も始まらない。彼らとのつながりをつくる場としてFABは地域にひらかれて、全ての職人のためになる場所でなければならないと思っていました。日田市が家具の産地として世界と勝負するならば、同業者が共存共栄していかなきゃならないし、互いに高め合っていきたいと考えています。


高須さん

中村さんが以前、「職人ってかっこいい」と言っていたのが印象に残っていました。中村さんにとって、「かっこいい」がキーワードなんだろうなと。ひも解くと、これもFABの骨格になっています。


ソファメーカーとしての目的は、良い家具をつくって、たくさん売れること。その目的を達成するためには2つの要素があると思っていて、ひとつは職人ってかっこいいと思える環境づくりです。家具業界全体が盛り上がるし、次世代の職人さんも育成できます。「家具づくりの仕事ってかっこいい」と思わせる空間が必要だと感じました。


もうひとつは、その場所が日田市であるということです。かっこいい仕事は地方でもできるし、日田市という家具の産地で実践するからこそ地域活性化にもつながる。「人」と「地域」という2つの軸を「かっこいい」という言葉でつなげ、出た答えがFABで表現されています。


中村

私は、職人を目指して家具業界に入ったものの、数年の修業だけで販売や経営の方に関わることになったので、職人になれなかったんですよね。憧れていた職人が本当にかっこいい人で、当社の職人にもそうなってほしいし、そうなれるステージをつくるのが今の私の役割だと思っています。


高須さん

中村社長は「職人になれなかった経営者」とおっしゃいますが、だからこそ良いんです。職人を下支えできる経営者として、職人と経営者の両方の視点を持っている中村社長の存在は大きい。プロデューサーとして、職人をいかにしてステージで輝かせるかっていうのを常に考えているから、いろんな仕掛けができるんです。


「できないこと」に悲観するのではなく、「今だからできること」に集中した結果、長くあためてきた構想を『FAB』という形で表現した二人。第2部では、人が輝き、地域が元気になる拠点『FAB』の完成によって見えた未来について考えます。